材料は買い揃えてあるのに…。
今日は少し前にSNKDの思い出について書いておきたい。
夏ごろ、私は突発性難聴を患い、しばらく仕事を休んでいた。
毎日長時間の点滴を受け、手は点滴の針の穴で一杯に。
ひたすら回復を待って通院する日々だった。
基本的に病院は携帯が使えない。
しかし、部屋によっては使えるところがある。ある休日に通院した日は携帯を使っても良い部屋で点滴を受けた。
その時に撮った写真がこれ。
天井から吊られた点滴のパック。体への影響を考慮して3～4時間かけて液を身体に入れる。
ん～…暇。
点滴してると手があまり動かせないんで本を読むくらいしかできない。
ひたすら毎日読書の日々。
そんな状況の中、右耳はなかなか治らなかった。特に高音が全然聞こえていないようで、何かと聞き取りにくかった。
いつ治るのか、治らないでこのままなのか、そのうち治るのか、今治らないとこのままの聴力で固定されてしまうって言われたっけ…
仕事はいつ復帰できのか、無事に進んでるのか…
点滴を受けながらこんなことばかり考えていて気が滅入っていた。
耳が聞こえないってだけで、結構なストレスだった。
発症の原因もストレスが考えられるって言われてたんだけど、これじゃ改善しないよな…って自分にツッコミ入れるしかなかった。
点滴をベッドで受けている間、もやもやと考え事をしたり、読書したり…
そんな時、常に腕時計を手元に置いて見ていた。たまに3時間ずっと時計を見つめている時もあった。まるでアブナイ人だな。…
SNKDはいつもと変わらず、チコチコと動いていた。6振動だから1秒に3回、チチチと動いていた。
規則正しく動くSNKDをそっと聞こえる左耳に当てる。チコチコチコ…小さな機械音が聞こえてくる。
今度は右耳にそっと当ててみる。
…何も聞こえない。どんなに集中しても何も聞こえない。止まってるんじゃないかと思って文字盤を見ると、チチチと進む秒針が見える。
…あー、右耳聞こえないんだな…
と、悲しい気持ちでまた時計をじっと見つめる。
そしてまた、しばらくして耳にそっと当てて見る…
そんな繰り返し。
ある日、なんだか少し右耳でチコチコチコという機械音が聞こえた気がした。
集中して耳をすますと、やはりなんだか聞こえる気がした。
治ってきたのか？
…とても嬉しかった。
右耳で時計の音が聞こえるのは、気のせいでもなく、本当に治癒が進んだみたいで、日増しにSNKDの音が聞こえるようになった。
そして、右耳はほぼ元通りの聴力に戻った。
治らない焦りと聞こえない不安感から救われた時計の機械音。日増しに大きく聞こえるようになっていったSNKDの音は、不安感からの救いの音であり、暇があれば右耳に時計を当てていた。
そんなことから、SNKDの音は病気を患っていたときの心の支えになっていて、その時の気持ちは今でも忘れることはない。
完治した今も、たまに耳にそっと当てると、チコチコチコ…
小さな機械音が聞こえてくる。
